肌が震えた
理事長小野友道
コロナが感染症法分類で第5類へと移行した。インフルエンザと同じ扱いである。マスクもご自由にとあいなった。しかし、まだまだ油断は禁物で、特に沖縄・東京などでは患者数が増え、いささか不気味ではある。コロナよ、もう充分暴れたではないか。これ以上迷惑かける気なら、人類は君の撲滅にさらなる知恵を絞り、きっと、君の息の根を止めることになることを覚えておくことだ。と勇んでみたがまだまだ巷ではマスク顔が圧倒的である。
しかし一方でコロナの勢いが衰えてきて、芸術文化の活動も対面で行われ始めた。本財団の奨励賞授賞式も久しぶりに熊本市現代美術館で行われた。ヒトの素晴らしい声、筝が奏でる音色が私の肌を震わせた。皮膚は音や光さえ感じるという科学的論文がある。恐怖ばかりでなく感激した瞬間も皮膚に鳥肌が立つ。手に汗握るのである。皮膚は感激を受け取る感覚器である。そう解剖学的な表現の「皮膚」が感情を表現すると途端に「肌」と呼ばれるようになる。「鳥肌が立つ」以外にも「肌が合う」や「肌を許す」に至るまで様々である。
かくして芸術から受ける感動はどうしても肌で感じなければならない。WEB発信では隔靴掻痒遠く及ばない。
Skin ship(スキンシップ)という人口に膾炙された英語がある。いや実はこれは英語の辞書には掲載されていない造語である。アメリカあたりでskin shipというと何やら怪しい意味合いで取られるようである。しかし、日本でのスキンシップは特に母子の関係において極めて大切な意味を表現してやまない。母親は子供の体温や汗の状態などからすべてを探るのである。赤ちゃんも母親の手を強く握りしめ放さない。唯一の拠り所としての母親の手の温もりで安心しきって眠るのである。
握手やハグには極めて大切な意義がある。
コロナよ去れ。コロナよ去れ。コロナよ去れ。
第10回市民財団奨励賞3作品が決定しました。
芸術の部 団体
(1)作品名:「アイラヴ漱石先生 朗読館」
団体名:株式会社エフエム熊本 代表取締役荒木正博
●選考理由
夏目漱石が熊本の地に降り立って150年余。漱石の作品は今も私たちに深い感動を伝えてくれます。この度の熊本県内の高校生らが夏目漱石の作品を率直に語り合った御社制作のラジオ番組「『アイラヴ漱石先生』朗読館」は、夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたいという欲求に応え、現代の若者たちに漱石を身近に感じられた素晴らしい企画でした。生徒たちの等身大の言葉で語られる内容は、私たちに感動を与えました。このような取り組みの継続と今後益々の活動に期待します。
(2)作品名:「第1回ジュディッタ・パスタ記念 熊本復興国際オペラ歌手コンクール」
団体名:日伊国際文化交流協会(ASCI) 実行委員長 河村邦比児
●選考理由
熊本から国際舞台で活躍するオペラ歌手を発掘しようと開催された初めてのコンクールは、日本のみならず国際的に活躍できるオペラ歌手の発掘・育成とともに国際舞台への足掛りの支援など、アジア出身の優秀な歌手が世界のオペラ界で活躍できるための国内外での実践的なサポートを計画されました。また、第1回コンクールが 熊本地震から6年の歳月を経て復興を成し遂げつつある御船町で開催されたことも大変喜ばしいことでした。このような取り組みの継続と今後益々の活動に期待します。
芸術の部 個人
(3)作品名:「開軒50年記念演奏会 第16回二宮晶代 箏こんさーと」
個人名:二宮晶代
●選考理由
貴方は 昭和45年から50年以上にわたり箏曲の公演を通じ邦楽の普及活動を続けて来られました。その活動はヨーロッパや中国など海外公演や国内では指導者として「二宮晶代お箏教室」を主宰、また、大学の講師を務めるなど日本の伝統音楽の普及と熊本からの文化の発信に熱心に取り組まれています。箏曲の音楽活動は多岐にわたり、文化振興に寄与されてこられた功績は大きくますますの活躍を期待します。
第10回奨励賞受賞にあたって
(1)「アイラヴ漱石先生 朗読館」 株式会社エフエム熊本 田上陽香里
この度は身に余る賞をいただき、ありがとうございます。
当番組の素材となった書籍「アイラヴ漱石先生─漱石探求ガイドブック―」(昨年4月刊行)は、第44回熊日出版文化賞を受賞されています。それに続く受賞は大変光栄であり、恩返しができた気分です。
番組の放送にあたっては、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センターのご支援の下、県内の各高校にも協力していただきました。文芸部や放送部をはじめ、野球部や写真部の生徒、特別編として熊本大学の学生の出演もあり、それぞれの興味・関心や個性が垣間見えます。放送前は生徒たちの本の読み方や考え方がわからず、トークもどうなるのか全く予想できませんでしたが、1人1人が漱石作品と正面から向き合い収録に挑んでくれたおかげで非常に実りの多い番組になりました。放送時間の都合により、泣く泣くカットした音声もたくさんあります。
全20回の放送に関わった約半年間を振り返るとあっという間で、満足感とともに寂しい気持ちにもなりました。ラジオというメディアは見えるものではないため、少し地味なイメージをお持ちの方もおられるかもしれません。実際に出演者の中にもラジオに馴染みがない、聴いたことがないという生徒がいました。しかし、この番組を聴いていただいた方が漱石に関して興味を持ったり、高校生の発想に驚いたり、ラジオの魅力に気づいたりと、どこかで人の心を動かし、豊かにできたことが何より嬉しいです。
この番組は熊日電子版で読むことが出来るほか、音声コンテンツを楽しめるAuDee(オーディー)というアプリで、いつでも、どこでも、何度でも聴くことが出来ます。漱石作品と同じように、永く残る番組、作品になることを願っています。また、今回の受賞を励みに、ラジオ局として今後も皆さまに愛される番組作りに取り組んでまいります。
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(2)「第1回ジュディッタ・パスタ記念 熊本復興国際オペラ歌手コンクール」 日伊国際文化交流協会会長 佐久間伸一
この度は「第1回ジュディッタ・パスタ記念 熊本復興国際オペラ歌手コンクール」に対しまして、第10回市民財団奨励賞をいただき誠にありがとうございます。
日伊国際文化交流協会は、2019年に第1回の国際コンクールを開催予定でしたが、コロナウイルスの感染が始まり活動休止の状態が続いておりました。2022年にコロナ感染も少しずつ収まりが見え始め、かねてよりジュディッタ・パスタ財団会長:オスカー・マシャドリ氏から共同開催の提案をいただいており、熊本地震から復興を成し遂げつつある御船町に開催の相談をいたしましたところ、ご賛同いただき、新たに輝く未来への出発点として本コンクールを位置づけられ、また、実行委員長をお引き受けいただきました熊本日日新聞社代表取締役社長河村邦比児様はじめ実行委員の皆様のお力添えもいただき開催が決定いたしました。
本コンクールには、日本全国からオペラ、コンサート等で活躍中の歌手をはじめ多くの素晴らしい方々のご参加により、レベルの高いコンクールとなりました。本コンクール出場者の中から第1位の前川さん他3名の方に、本年5月イタリア・サロンノ市で開催の姉妹国際コンクールへの出場権が与えられ、見事2名の方が本選出場を果たしました。
本年は10月26日より30日までの日程で「第2回ジュディッタ・パスタ記念 熊本復興国際オペラ歌手コンクール」が開催されます。本コンクールは優れたオペラ歌手を世に送り出すことを最大の目的としています。今後も継続し熊本をオペラの発信地として世界から注目される国際コンクールに成長できることを願っております。
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(3)「開軒50年記念演奏会 第16回二宮晶代 箏こんさーと」 二宮晶代
この度は第10回市民財団奨励賞に選んでいただき、大変ありがたく光栄に存じます。
宮城宗家での修行から帰郷して熊本で活動するようになってから、半世紀にもなろうとは、我ながら信じがたい思いです。帰熊後、お箏や三味線が一般的には馴染みが薄く、何か音楽とは違う特別のものとして受け取られているようで残念に感じていました。自分自身の技量を磨いたりお弟子さんを育てたりと漠然と考えていましたが、自分の教室を開設し、少しずつ目標がはっきりしてきました。お箏三味線に限らず、伝統文化や伝統音楽はそれを自ら演ずる者ばかりでなく、見たり聴いたりして楽しむ方々がいてこそ継承されるものだから、多くの方々に知ってもらい、その面白さを楽しんでいただける活動にも取り組みたいと。
1986年『第1回二宮晶代箏こんさーと』を開催いたしました。以来、邦楽の多彩な面白さを少しでも多くの方に楽しんでいただきたいと隔年ごとに開催してきましたが、2015年に15回目を開催した翌年、熊本は大地震に見舞われ、また新型コロナの蔓延により窮屈な日常生活とともに、文化芸術活動やいろいろなイベントも中止・延期が余儀なくされてきました。まだまだ楽観できない状況の昨年4月、多くの方のご支援により開軒50年記念として第16回を開催できました。
今回も藤原道山さんと池上眞吾さんをゲストにお招きし、新しい試みとして邦楽研究家の野川美穂子先生に司会と解説をお願いしました。曲の聴きどころやエピソードなどをお話しいただき、ご来場の皆様に邦楽が少しでも身近な音楽として楽しんでいただけたならば大変嬉しく思います。
この演奏会も、今回で締めくくりかなとも思っていましたが、思いもかけず立派な賞をいただき、ご鞭撻と受け止めもうしばらくライフワークとしての『二宮晶代 箏こんさーと』を続けていければと思っています。
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